2023年共通テスト講評 国語現代文編

皆さんこんにちは。
高校生コース講師の小谷野です。

今回は、2023年の共通テストの講評を残していきます。
実施からだいぶ時が流れてしまいましたが…。
今回からは国語です。

まずは現代文編です。

CONTENTS

全体講評

国語全体としては、やや難化という印象です。

基本情報(国語全体)
平均点:105.74(2023) ← 110.26点(2022) ← 117.5(2021)
マーク数:37(2023) ← 36(2022) ← 38(2021)
ページ数:48(2023) ← 44(2022) ← 39(2021) ※本文、もしくは設問が記載されたページ数
現代文のみ
マーク数:20(2022) ← 19(2022) ← 21(2021)
ページ数:29(2023) ← 26(2022) ← 24(2021) ※本文、もしくは設問が記載されたページ数

国語は、平均点としても下降傾向にあります。
マーク数はあまり変化していない割に、問題のページ数が増加しています。
2022年度と比べたページ数の増加分は、
・第1問の最終問題文(問6が3問あった分)で1ページ増
・第2問の本文が2ページ増(そのうち1ページは注です)

やや難化した要因は、
・読解問題の分量の増加
かなと思います。
設問一つひとつが難しいというよりも、問題の量が多いなという感想です。
全体を解いて、時間が厳しいなという印象でした。
現代文に関しては、問題を解く上での情報処理量が増えていると思います。
傍線部の周辺のみで解ける問題もあるのですが、より広い視野をもって解かないといけない問題もありました。
第1問は文章内容が少し難解です。設問の要求としては、内容を完全に理解しないまでも、論理的な理解を求めているなと感じました。
第2問は小説なのですが、心情の理解だけでなく、メッセージ性の読解が必要でした。
あとは、「表現」に関する問題が1問も出なかったのは意外でした。
昨年度は第1問の問5、第2問の問4、問5など、表現に関する問題が多い印象でした。
それが今年は1問もありませんでした。
また、昨年度は、第1問の問2のように、評論文中に小説に近い問いがありました。
それに対し今年は、第2問の問6のように、小説の中に評論文に近い問いがありました。
共テ現代文は問の立て方が多様化しています。
これに加え、資料問題、随筆や詩の問題なども今後は出題されうると考えると、本当にバリエーションが多彩です。
センター試験時代に比べて設問のバリエーションも増え、対策しづらくなったなという印象です。

設問別の所感

設問別に見ていきましょう。

第1問
リード文はきちんと読みましょう。ル・コルビュジエの窓に関する文章だそうです。文章が二つあるようです。重要なのは、【文章Ⅱ】は、【文章Ⅰ】とは別の観点から考察したものということです。←ここを読み飛ばさないでください!
昨年度は二つの文章の共通点に焦点が当たっていましたが、今年は相違点にも目を向けさせてきます。
あと、可能な限り、選択肢は「消去法」ではなく、「積極法」で絞りましょう。粗探しではなく、宝探しをしましょう。自分が見つけたい宝を定めてから選択肢の森に出かけてください。間違いを探そうとすると、どれも同じ選択肢に見えたかもしれません。間違いではなく、最適な文言を探しましょう。

問1は漢字問題。昨年度と同様に、漢字の意味を問う問題も登場しました。難易度としては低い気がします。小説で語句問題が2年連続なかったことも考えると、今後の共通テストは知識に関する問いをあまり重視しない方針なのだと思います。それと同時に、ただ漢字を書くだけではなく、漢字の意味を理解するという本質が求められています。
問2は標準的な傍線部問題。「どういうことか」問題なので、基本的には傍線部を部分に分けて、過不足なく言い換える問題。主語を外さない、傍線部を含む一文で線が引かれていない箇所をヒントにする、などの基本方針はありますが、今回はどちらも結果的には決定打にはなりません。選択肢を見ると、すべて前半の子規の説明は合ってるし、ガラス障子というワードも外していません。とはいえ、上記の視点も大事ですよ。今回の解法としては、単純に述部を過不足なく言い換えるという方法ですかね。つまり、「季節や日々の移り変わりを/楽しむことができた」とはどういうことなのか。動詞のみで判断してはいけません。共テにおける大事な判断法として、「一点突破で選ばない」という考え方があります。どんな問いも一つの判断基準のみで選ぶのはやめましょう。今回の例だと、二文前の最後に「慰めだった」ってあるじゃん、だから答えは「自己の救済」の②!みたいな解き方です。悪くはないのですが、足りません。最低二つくらいは判断基準を持ちましょう。何が慰めだったのかというと、「庭の植物や空を見ること」ですよね。次の文でも、「視覚こそが子規の自身の存在を確認する感覚だった」とあります。見ることが大事なのです。ガラス障子を通して世界を「見る」ことが、慰めであり自己の存在確認だったのです。だから答えは③ですね。

このペースで説明すると疲れるので、ここからは概観的に問題を見ていきます。
問2~4までが【文章Ⅰ】への問い、問5が【文章Ⅱ】への問いでした。
今年の構成で言うと、問2、問3は問4を解かせるための誘導ですね。
問4が実質的に【文章Ⅰ】の要約を問うています。
それに対し問5は、誘導なしで急に【文章Ⅱ】の要約を要求している感じです。

この形の問題の作り方ってどこかで見たことないですか?
誘導に乗って解かせた後、類題を誘導なしで解かせる。
そうです! 数学でよく使われる問題の仕組みですね。
数学と国語は正反対の科目だと思っている方もいるかもしれないですが、意外とそうでもありません。
似ている部分もたくさんあります。むしろ、多くの部分で共通しています。
共通点の一つが設問の作られ方です。

現代文という科目に対する批判的な意見として、「答えが一つに定まらないじゃないか」、というものがあります。
本文の著者が解いても間違える、という話もよくネットで話題になったりします。
その意見は非常によくわかります。ですが、それは現代文の科目の特性を半分しか理解していないから起こる誤解だと思います。
現代文で問われているのは、もちろん本文の論理的な理解です。
「次の文を読んで、後の問いに答えよ」という決まり文句の通り、本文を読んで問いに答える科目です。
事前の知識のみを要求しているわけではありません。
目の前の初見の文章を読み、著者が伝えたい意見を読解してくださいという要求です。
それに加えもう一つ重要な要素があります。
その本文を選定し、問いを作成した作問者がいるということです。
作問者の意図に乗るという技術も、現代文が要求する能力の一つです。
現代文の問題は、著者との対話であると同時に、作問者との対話でもあるのです。
本文自体は幾通りもの解釈が可能かもしれないですが、作問者の解釈はそのうちの一つです。
その解釈に誘導してくれるのが前後の問いそのものなのです。
問いの答えがわからないとき、本文を熟読することも重要です。
それに加え、前後の問いの答えを参考にするという姿勢も大事です。

数学も似ていると思っています。
ある条件で問いが設定されていれば、たしかに答えは一つです。
ただ、その問いをどのような意図で作問したのかは、作問者によって異なります。
同じような問題設定でも、ベクトルの問題として想定したのか、幾何の問題として想定したのか、座標上の問題として想定したのかは異なります。
作問者の意図に気づかせてくれるのが誘導です。
数学も誘導に乗ることが大事です。
別解はもちろんありますが、作問者が想定する模範解答はおそらく一つです。
なので、大雑把に把握すれば数学と国語は似ていると思っています。

さて、話が横道に逸れてしまいました。
閑話休題にしましょう。
第1問の問題構成の話でした。
再度確認です。
問2、問3は、問4という名の【文章Ⅰ】の要約を解かせるための誘導です。
問5は、誘導なしで【文章Ⅱ】の要約を要求します。
【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】の意見をごっちゃにしないように解きましょう。
問4と問5は、ラスボスである問6を解くためのヒントになっています。
きちんと参考にしましょう。
問6の中では、(ⅲ)は注意が必要です。
【文章Ⅱ】のことを問われていることに気づいてください。
(ⅲ)の④は意地悪なダミーです。「視覚装置」は【文章Ⅰ】の話です。
【文章Ⅱ】は沈思黙考の場にするという話だと問5によって理解できていれば、答えを選べたのではないでしょうか。

第2問
共通テストらしい小説の選定ですね。時代設定が古く(戦後)、場面設定も受験生には想像しにくいもの(広告会社の会社員)でした。
今年の小説を解く上でのコツは、
①誘導にうまく乗ること(評論と同じ)
②設問ごとの解答根拠の射程を定めること(神の視点に立たない!)
この二点かなと思います。

間違えた人が多かったのが問1と問5でした。(少ない標本調査ですが)

問1に関しては、解答根拠の射程が非常に大事。
つまり、後ろを読み過ぎず傍線部前後の会話や設定から素直に解くことが要求されています。
時系列を超越した神の視点に立たない。これが肝要です。
次のページの後半まで読んでしまうと、おそらく③や④と迷ってしまう気がします。
傍線部Aの時点では、まだ「私」は自分の間抜けさに気づいてはいません。
その件は問2で聞かれますので焦らないでください。
会長の言葉にあわてた、そして説明を補っている。ただそれだけです。
時系列の順序をすっ飛ばしてはいけません。
解釈が加えられすぎていない、最もシンプルな選択肢が答えとなるというのも共通テスト小説のあるあるです。
面白みやユーモアに欠けるように思える選択肢が答えであることが多いです。

問5も見ましょう。
ここは誘導に乗りましょう。
どういうことか?
先に問6を解きましょう。そして問5に戻りましょう。
これは結果論的ではありますが、問6の方が解答しやすかったと思います。
たしかに、問6の方が解答に必要な要素が多いです。それが逆説的に問6を解答しやすくさせています。
問6の解答である④の選択肢をよく見ると、「人並みの~決意をし」の部分。
これは問5の解答である①そのものです。
問5と問6は傍線部の位置が隣接しているので、解答根拠の射程が被ります。
そこで、比較的簡単な問6から逆算的に問5を解くのもありかなと思います。
とは言っても、これは飛び道具的な解き方です。
もっと普通に問5を解いてみると、
まずは、直前の感情を追ってください。
このブログでも何度か書いていますが、小説を解くときの基本姿勢は、
「感情の中身」を探す→「感情の対象」、「感情の根拠」を逆算的に考える、というものです。
さて、直前の感情は以下の通りです。
・「衝動」(p23最後の行)
・「静かな怒り」(p24最初の行)
・「決心をかためていた」(p24最初の行)
そしてそれぞれの感情の対象を整理しましょう
・「衝動」 → 「日給3円であること」 = 給料が安いということ
・「静かな怒り」 → これも給料が安いことに対してです もしくは会社に対してなのかな?
・「決心をかためていた」 → 「此処を辞める」(感情の対象というよりも中身に近いですが)
これくらいがざっくり整理できれば選べたのではないでしょうか。

小説に関しても、消去法ではなく積極法をおすすめします。
粗探しだと、作問者の術中に確実にハマります。
共通テストの選択肢は巧妙なので、内容理解が不十分な状態で読んでしまうと、どれも正解に見えてきます。
なので、100%でなくとも、60%くらいは自分の頭の中で必要な要素を認識してから選択肢の吟味に移りましょう。

あと一応最後の問7です。
こうした問題こそ、作問者の意図に乗ることが求められる問題です。
(ⅰ)の方は結果的には、一番曖昧で素朴な選択肢が答えですね。
【資料】の広告を見ただけで、本文との共通点に気づくのはほぼ不可能でしょう。
そうではなく、33ページの【文章】をよく読んでください。
(Ⅰ)の直後、「この共通点は、本文の会長の仕事のやり方とも重なる」。これが大ヒントです。
(Ⅱ)の方も、直前の「本文の最後の一文に注目して」が大ヒント。
自力で解くのではなく、作問者の誘導にうまく乗りましょう。

問われている能力

大学入試共通テストで問われている能力はなんなのでしょうか?
まずは、大学入試センターが公表している資料から抜粋します。
 ●全科目共通の事項
①知識の理解の質を問う問題や,思考力,判断力,表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視する
 ●国語特有の事項
②言語を手掛かりとしながら,文章から得られた情報を多面的・多角的な視点から解釈したり,目的や場面等に応じて文章を書いたりする力などを求める。

「文章から得られた情報を多面的・多角的な視点から解釈」という狙いはわかる気がします。
第1問では複数の文章の論点の違いを問うていたし、第2問では当時の広告も絡めてメッセージの読解を求めていました。
「目的や場面に応じて文章を書いたりする力」というのをどのように問うているのかは不明です…。
おそらく、両大問の最後の問いで、会話文に穴埋めさせたり、文章に穴埋めさせたりするという意味でしょう。

こうしたことも踏まえ、問われている能力を検討すると、以下のようなものかなと思います。
①語彙力(初見の語彙の意味を文脈の中で理解する)
 漢字問題の問い方なんかを見ても語彙の意味理解を重視している気がします。
②文章構造を把握する能力(短い文脈から、原因-結果、動詞-目的語などの関係性を読み解く)

 各大問前半の問いはこうした能力を問うているのかなと思います。
③文章全体の論旨を読み解く能力(文章を貫く一つの主張を正確に読み取る)

 各大問の最終問題は、他の大学入試ではあまりない形で論旨を問うてきます。

ありきたりな表現ですが、こんなところでしょう。
ここからは、個人的な印象論です。
昔のセンター試験では、文脈を把握していなくとも指示語で一発。みたいな問いも散見されていました。
傍線部に「それ」なんかが含まれていて、「それ」の中身を前文から把握すればお終い、みたいな。
近年はそうした問いが減少しているかなと思います。
(2021年度大1問の問2なんかは指示語の問題ではありますが、文章内容の理解も必要なので少し難しいかなと思います。)
要するに、共通テストになってからは文章全体のより深い理解が求められているという印象が受けます。

今後の対策

上記に挙げた3つとも非常に重要だと思うのですが、最も軽視されているが最も大事なのが①語彙力だと思います。
英語なら英単語を覚えるし、古文なら古文単語を覚えるのに、現代文では現代文単語を覚えない人が多いように感じます。
(とはいえ近年は、自分が受験していた10年前くらいよりかは、現代文単語の重要性がより認識されているため、きちんと覚えている人も増えているとは思います。)

第1問で言えば、「視覚装置」「空間的構造化」みたいな単語を見たときに怯まずに、かと言ってスルーせずに、きちんと意味を把握する姿勢が大事です。
現代文の難しい文章(大学の人文科学や社会科学系で読まされる論文などでもそうですが)では、既に存在する語彙の組み合わせによって、文脈に応じた意味を担うことがよくあります。
難しい語彙を見たときの対処法は
・単語を部分に分解
・接頭語、接尾語に注目
・対義語を意識

例えば、「視覚装置」。
まずは部分に分解しましょう。「視覚」+「装置」という単語ですね。
二つはそれぞれ日常的な語彙かなと思います。
「視覚」はまあいいとして、「装置」なんかは現代文中では独特の意味を帯びます。
個人的な理解では、「何かの仕組みをもったものであり、特定の役割や目的を担うもの」といった意味です。
つまり、「視覚装置」というのは、文字通りに捉えれば、「見ることを通して何か特定の目的を達成させてくれるもの」、みたいな意味だと思います。

「空間的構造化」はより難しいですね。私も正直よくわかりません…。
ただ、語彙を理解する際の基本姿勢は変わりません。
まずは部分に分解する。「空間」+「的」+「構造」+「化」
接頭語、接尾語に注目。「的」は名詞について「~のような性質」という意味を表す接尾語ですね。「化」は変化のニュアンスを付与して「~に変える」という意味を表す接尾語ですね。
つまり、ここまでで、「空間的構造化」=「空間という性質において構造に変える」みたいな意味です。
まだ、よくわかりません。
ここからはより高度な解釈が必要です。
対義語を意識する。「空間」の対義語は「時間」だと思います。(物理学的には時間も空間の一部だという解釈もあるでしょうが…)
現代文では、「空間」という語を使う際には、「時間」の対義語だと意識されて使われることが多いです。
ちなみに、共時的と通時的という対義語も大事です。
まあここでは、空間的と書かれているので、時間ではなく空間の話なんだな、くらいの理解で十分だと思います。
あとは「構造」です。これは、イメージしやすそうでイメージしづらい単語です。
結論を言うと、ここでは、「固定化する」、くらいの意味だと思います。
「動かぬ視点」という話が続いているので。
これは、現代文の根底にある二項対立を参考に解釈してます。
それは「固定的」/「流動的」という対立です。
細かい話は、未来のいつかに譲るとして、現代文の語彙において、固まった感じがするか動いてる感じがするか、というニュアンスは大事です。
ここで言う構造化とは、前者の固まったものにするという意味だと思います。
空間と時間という語彙も、どちらかと言うと空間の方が固そうで、時間の方が流れている感じがしませんか?
私はそんな感じがしています。
なので、「空間的構造化」とは「何か固まった空間にする」という意味だと思います。

単純ではありますが、こうしたちょっとした語彙への理解があるかないかで文章全体の読解の深さが変わります。

このように、既に存在する語彙を組み合わせて、その文脈で必要な概念を提示するというのが学術的な文章では日常です。
このルールに慣れていないと、難解な語彙に面食らうかもしれません。
もしくは、文脈に頼り過ぎた解釈しかできなくなってしまい、文意が取れない文章では語彙の意味も取れなくなってしまします。
日頃から現代文の語彙を定着させることが大事です。
語彙の学習こそが現代文学習の第一歩となります。

まとめ

ここまでは、2023年度共通テスト「国語」の中でも現代文の講評をしてきました。
雑多な感想も多くなってしまいましたが、部分的に参考にしてもらえれば幸いです。
今後は、古典、そして数学も講評を残す予定ですのでお待ちください。

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