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「大学入学金は返還不可」という問題

こんにちは。
高校生コース講師の小谷野です。

今回は少し硬派な話題を取り上げます。
「入学しない大学に払った入学金は返ってこないよ!」という問題です。
これは、日本における教育格差の原因の一つともいえる問題です。

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K君の併願例

まずは具体例から。
以下のような学生K君を考えてください。
第1志望:東京大学文科三類
第2志望:早稲田大学文学部
第3志望:上智大学文学部
これらの試験日と合格発表日、入学金納付期限の関係は以下の通りです。

試験日合格発表日入学金納付期限
東京大学文科三類2月25日、26日3月10日3月15日
早稲田大学文学部2月17日2月26日3月5日
上智大学文学部2月4日2月16日3月1日
2021年度の日程を参考にしています

わかりますでしょうか?

この子の第1志望は東大です。
しかし、第1志望の東大の合格発表よりも前に、上智と早稲田の入学金納付期限が来てしまうのです。
入学金納付期限というのは、その期日までに入学金を納めないと入学の権利が取り消される期限ということです。
大学の入学金というのはだいたい20万円~30万円です。

仮にK君が見事、早稲田に受かったとしますね。
この段階では東大に受かる保証はないですから、既に合格している早稲田に一度入学金を支払って入学の権利をキープしたいと思うのが普通でしょう。
そして東大にめでたく合格した場合は、早稲田に払った入学金30万円は返ってきません…。
改めて東大に30万円の入学金を支払います。
なんか解せない仕組みになってますよね?!
この例は、私立と国公立の間のスケジュール差による問題でしたが、もちろん私立の間でもこの問題が起こりえます。
早稲田や慶応の中には、3月2日以降(例に挙げた上智文学部の入学金納付期限以降)に合格発表を行う学部もあるので、場合によっては3回入学料を払うという事態も起こります。

ただ、このような事態が発生するのは、早稲田や慶応など国公立と併願されやすい大学です。
仮に、入学金は払ったけど入学しなかったという生徒が1年に100人いたら、30万×100=3000万のお金が入ることになります。(東大など上位国公立に入学する人数を考えれば実際はもう少し多いと思います。)
大学にとっては大きな収入源です。
しかし、受験生の家庭にとっては大きな痛手です。

この問題を避けるために、併願を回避する家庭もあるでしょう。
つまり、国公立専願で臨むということです。
ただそれはリスクを伴います。
落ちたら行く大学がないからです。
浪人することでかえって費用がかさんでしまいます。
もしくはその逆の対処法も考えられます。
早稲田や慶応など合格発表が遅い大学、学部を回避して、確実に受かるその下の大学を受けるという選択です。
要するに、先に受かった大学にそのまま行くということです。
これなら払った入学金は無駄になりません。

でも、、、
それでいいのでしょうか???
上記のような選択が決して悪いわけではありません。
ただ、入学金などお金の兼ね合いでそのような選択に及んでいるのだとしたら、それは格差だと言えるでしょう。

「入学金納入時期延長を求める学生有志の会」の会見

このような現状に対して声を上げたのが、「入学金納入時期延長を求める学生有志の会」です。
詳しくはこちらを見てみてください。
会見の動画を見ることができます。
団体の要求は以下の通りです。

  • 入学金の支払期日は、三月末に
  • 政府が高等教育への支出増
  • 学生個人への支援

現行の制度のままだと学生の選択肢を狭めているという主張です。
だから、全大学とも入学金の納付期限を3月末に統一しよう。
そして、国はもっと高等教育への投資をすべきだ。
入学金をぼったくることで成り立っていた私立大学たちには国が支援の手を差し伸べればいい。
それに加えて、困窮する受験生家庭にも支援をしてほしい。
といった内容です。
具体的な中身は、上記の具体例で少しイメージできるかと思います。
お金が払える家庭はいいのです。問題はお金が払えない家庭です。

入学金が30万円ほどかかるというのは不相当に高額ではないかという主張もされていました。
この問題に関しては、最高裁判決が平成18年に下されています。
詳細は学納金返還請求に関する最高裁判決を参考にしています。
最高裁の判決は以下の通り。

入学金は、その額が不相当に高額であるなど他の性質を有すると認められる特段の事情のない限り、学生が大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有する。そして、入学金の納付をもって、学生は上記地位を取得するのであるから、その後に在学契約が解除されたとしても、大学はその返還義務を負わない。

学納金返還請求に関する最高裁判決
弁護士 茶木 真理子

入学金はあくまで、「大学に入学する地位を取得するための対価」だそうです。
その一方で、授業料は教育役務の提供等の対価なので返還義務があるという判決が下りました。
それ以前は授業料も前納で返還がなかったのですね。
そうは言っても、「大学入学の地位を取得するための対価」に30万円が妥当なのか、というのが最大の疑問です。
個人的な感覚としては、不相当に高額ではないかと思います。

それに加え、国の高等教育への支出が少ないというのも課題です。
しかし、これは日本という国の全体構造の問題とも絡むので一概に非難するのは難しいです。
 ・大学の数が増加し、大学進学率が上昇していること。
 ・企業が新卒一括採用、年功序列の制度を続けていること。
 ・日本の学歴社会が、大学での研究内容ではなく、大学名自体を重視していること。
上記のような構造が絡み、高等教育が社会の中で果たす役割が不鮮明になっている気がします。
企業は大卒・新卒を優遇するので当然大学進学率が上がります。
すると高等教育への意欲が薄い大学生が増えるので、そこに公財政を支出するのもどうなのかという議論も起こります。
一方その陰で、学習意欲があってもお金の関係で大学進学できない人もいます。
それに、モラトリアムとしての大学生活の意義も否定できないので、大学進学率が上がることが悪いとも言えません。
日本の企業が大学名による学歴フィルターではなく、研究内容、学習内容によるフィルターを設けてくれれば、高等教育への位置づけも少し変わるかもしれません。
それには、修士号や博士号取得者が社会で活躍できるような仕組みも必要になります。

これは、急には変化できない社会構造の課題だと思います。
結局難しい問題です。

解決するか?

今回の請求に対して、国や裁判所が動くのかというと難しい気がします。
既に15年前に最高裁判決が下っているので。

万が一、入学金の返金義務があるという判決が下れば、大学側は受験料を高額にするでしょう。
そうなれば、受験生は受験する学校数を絞らざるを得なくなります。
大学も営利企業なので仕方ないです。
結局はいたちごっこです。
国が高等教育の在り方に関して抜本的な変革を行ってくれないと解決はしないかなと思います。

ただ、問題提起をしたというのは大変意義があります。
「これを問題にしていいんだ!」
このニュースを見たときの第一印象はそんな気持ちでした。
多くの人は、現状の制度を仕方ないものとして受け入れていると思います。
しかし、現状が最善であるとは限りません。
そこに問題意識を持って意見を提示することは、社会を変えていくために重要です。

社会問題は、それが問題であると誰かが主張することから始まるのです。

特に教育の問題に関して言うと、大人たちは自分が歩んできた道を正当化しがちです。
それを子どもにも当たり前だと思って押し付け、気づかぬうちに格差が再生産されていく。
その結果、都会と地方、所得の多寡、周囲の環境などなど、些細な変数によって大きく異なる結果が生まれます。
理不尽な関数だと思います。
もちろん、良い大学(偏差値が高い大学)に入ることが必ず良いと主張したいわけではないです。
しかし、選択肢を知っておくというのは大事だと思っています。

小さいことから教育の格差を見つけていき、少しずつ解決していくしかないと思います。
これから大学受験を迎えるお子さんやその保護者の方々には、上記の現状を頭の片隅に置いて大学受験を乗り越えていただければ幸いです。

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