楽しいから始まる学び ~伊沢拓司さんの講演会を聞いて~

こんにちは。
高校生コース講師の小谷野です。
今回は講演会に参加してきた感想&意見を書いていきます。

拝聴した講演会は、
9月18日(日)塩尻市のレザンホールで開催されました「楽しいから始まる学び」です。
講師は、あの伊沢拓司さんでした。
QuizKnockの編集長であり、東大王などに出演するクイズ王や、最近では無人島に行く人としても有名ですね。

何を隠そう筆者は、伊沢さんと同じ大学でして、それだけではなくて、同じ学年でもあるんです。
つまり、一応同級生なんです…。
とは言っても在学中は伊沢さんと会話したこともなければ、お見かけしたこともございません。
何の関係性もないのですが、一応同級生なので、日ごろ陰ながら応援しておりました。
そんな伊沢さんが信州に来るということで、これは行かなくては、と。
会場は小中高生やその親御さんが多かったですね。
レザンホールがほぼ満席で、人気の高さに驚きました。

塩尻レザンホール

伊沢さん一人の独演会だったのですが、やっぱり喋りがお上手ですね。
本論もさることながら、余談のエピソードトークが面白い。
伊沢さんにしか語れないオリジナルの体験談が盛りだくさんでした。
特にテレビ番組に出た際のエピソードが印象的で、スタッフの顔色を見て正解する技術や、クイズ番組に出演した際に自身の幼少期の神童ぶりを過度に脚色されたエピソードなど。
あとは、伊沢さん自身、自分は普通の人間なんですというのを強調していたのも面白かったです。
東大生だから天才なんじゃないかと思われるけどそんなことなくて、経済学研究科の院試にも落ちたし、研究者としても挫折したという話に個人的に共感していました。(自分も院試に落ちた身なので…)
それを普段の会話のようなテンションで、友達に対するような話し方で語る姿に好感が持てました。
忙しい中長野までわざわざ来ていたのでしょうが、人柄が出てましたね。

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「楽しいから始まる学び」のためには?

さて、そんな伊沢さんのポジキャンはそこそこにして、本題です。

講演タイトルの通り、メインの話は「楽しいから始まる学び」についてです。
楽しいの中に学びを散りばめるというのがQuizuKnockのコンセプトだそうです。
たしかにQuizKnockの動画はエンタメ動画なのですが、一応クイズをしてますもんね。
楽しい動画を見ているはずが気づいたら知識が増えている!っていう感じを目指しているそうです。
知らなかったですが、非常に参考になりました。

ただ、それには課題があります。
楽しいの中に学びを散りばめるといっても、それには限界があります。
楽しいの中に、三角関数の加法定理を散りばめられるでしょうか? 古文における主語の判別法を散りばめられるでしょうか? 
難しいですよね。
そんな、一見地味で、地道で面白みに欠けるような勉強を楽しむにはどうしたらよいのか?
それがこの講演のメインテーマでした。

本当は結論にいたるまでに1時間30分の前置きがあったのですが、今日は時間がないので早速結論をお教えします。
それは、
成長を楽しむ

これだそうです。
1時間30分の前置きを聞かないと陳腐な結論に思えてしまうかもしれないですが、ご了承ください。
前置きの内容が気になる方は、ぜひ伊沢さんの講演を聞いてみてください。

以下、伊沢さんの結論をまとめたものです。

勉強を嫌いな人が勉強を好きになるのは難しいです。人間何が好きかなんて偶然でしかないのです。
朝から晩まで微分積分をしても飽きない人もいれば、1日中推しの動画を見ていたい人もいて、サッカーの試合を観戦に全国を駆け回る人もいますよね。「好き」という感情を変えるのは難しいのです。
東大生ですら、心から勉強が好きなのはごくごく一部で、多くの人は無理やりに勉強に取り組んでいます。
では無理やりにでも勉強に取り組むためにどうするのか?
勉強そのものを好きになるのではなく、成長するという過程を好きになり、それを楽しめばよいのです。
成長すること自体を楽しむ。
そして、その成長も他人と比べてはいけません。昨日の自分と比べましょう。
1年前の自分のことなんて忘れてしまうでしょうが、昨日の自分くらいなら覚えていますよね。
昨日と比べて少しでも成長していたら、それでいいのです。
成長を楽しみましょう!

ざっくりとこんな結論だったと思います。

遠くから看板を撮影

点数化される学びは楽しくない!

ここからは講演を聞いて思った小谷野の意見です。

成長を楽しむという話。
その通りだと思います。
しかし、それが今の小中高生にとっては難しいんだろうなと日ごろ接していて感じます。

それは、学力を点数化されてしまうからです。

点数化すること自体が全面的に悪いとは言いません。
複数の人の差を比較しやすくなるので、試験によって人を評価する上では仕方ないと思います。
でも、点数を多くとることそれ自体は学びの本質ではありません。
点数というのは他人が決めた尺度でしかないのです。
自分の成長を可視化してくれる物差しではありません。
点数だけにこだわっていると、多くの人にとっては苦しい結果を招きます。
たしかに、ずっと1位を取れる人にとっては楽しいのです。
しかし、それ以外の人は楽しくなくなってしまいます。
(大学入試とか、資格試験とかの勉強をしている間は仕方ないことではあるのですが…)

特に昨今の「思考力」を問う共通テストの問題は、成長が点数に反映されにくいテストだと思います。
(だからといって、悪いわけではないですよ)

例えば英語。
従来のセンター試験だと、発音アクセント問題や文法問題がありました。

boat とboard の「oa」の発音の違い。
時、条件を表す副詞節の中では未来のことでも現在形。
suggest の後ろのthat節内で動詞は原形。
使役動詞のget はto 不定詞をとる。
などなど。

こういう知識問題は、成長と点数が相関しやすいです。
知らないと解けないし、知っていると解ける。
言い換えると、知っている/いないと、正解する/しないが相関しやすいのです。

しかし、現在の共通テストのような、文章内容の理解を問う読解問題だとそうはいきません。
どうしてか?
まず、勘でも正解しやすいです。内容一致問題なので、問われた箇所だけなんとなくわかれば解けたりします。
つまり、あんまり勉強していなくてもある程度は解けることがあります。
それでいて、相当成長しないと点数の上昇を実感できません。
本文は結構読めたなって思っても、選択肢の動詞一つのニュアンスや否定文か肯定文かなどの引っかけで簡単に不正解にもなります。
間違いの選択肢まで吟味して、本当の意味で完答できるようになるには壁が高いのです。
上記二つの意味で、自分ではたくさん勉強したと思っていても意外と点数が伸びないものです。
思考力はそう簡単には伸ばせないという意味かもしれないのですが…。

そんなときに点数化されていない成長を感じてほしいのです。

点数に反映されていなくても、皆さんは十分に成長しています。
それは、一人ひとりを見ていれば一目瞭然です。

1か月前までうろ覚えだった関係代名詞と関係副詞の違いがわかるようになってる!
以前より、文章を繋ぐ言葉の使い方が上手になっている!
先週間違えた因数分解を今週は解ける!
などなど。
生徒一人ひとりに感じる成長は山ほどあります。

そうした点数化されない成長を、自分自身でも素直に感じてほしいのです。

例えば、
この前単語帳でやった単語が本文に出てきたから意味がわかった!
前よりも読むスピードが速くなった!
選択肢の英文の意味が全部わかった!
などなど。
点数には直結はしていないけど、成長している部分は多くあります。

他の科目も同じです。
小さい成長を素直に感じてほしいのです。

大人になっても勉強を楽しんでいる人は、この小さい成長を素直に喜ぶ能力に長けているのだと思います。
自分もたぶんそうです。
学生時代にあまり頑張らなかった、数Ⅲや物理、化学を最近勉強していますが、少しできるようになっただけで、
「あれ、俺天才なんじゃね」って心から思ってしまいます。
そう思えるのは、大学入試とか、資格試験とか、何か点数化されて評価される目標を設定していないので、特に差し迫ったプレッシャーを感じてはいない、という環境要因が大きいと思います。
だから、単純に学びを楽しめるのです。
正直、大人になってから、
単振動の式を微積で導けるようになった!
オイラーの等式って美しいな!
かけ算って回転なんだ!
などと気づいて成長をしても、社会的な意味はさほどありません。
しかし、楽しいのです。
それでいいと思います。

なので、小中高生のうちから、点数化にとらわれ過ぎないような学びの機会を作ってあげることが、大人にできる手助けかなと思います。
楽しく学ぶとは、口では簡単に言えますが、実行するのは難しいです。
それを少しでも手助けできるようになりたいと思わせてくれた講演会でした。

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